「ムツゴロウさん」のような小児科医を目指して
「ムツゴロウさん」の愛称で親しまれた作家で動物研究家の畑正憲(はたまさのり)さんを、皆さんご存じでしょうか?
ムツゴロウさんは2023年に亡くなられましたが、猛獣たちと体当たりでふれ合う姿が有名で、私の記憶では、誰も近づきたがらないような動物たちと笑顔でじゃれ合う、優しいおじいちゃんでした。TV番組の収録中、ライオンと柵越しに接していたときに指を噛まれて指を失う大けがも経験されましたが、それでも動物たちとの共生を貫きました。
なぜこんな話をしたのかというと、実は私自身が「ムツゴロウさん」を目指しているからです。
もちろん、私は小児科医ですので、動物研究家になるつもりはありません。
私は開院してからの約2年間、マスクなし診療を続けてきました。来院される方から「先生は感染しないのですか?」と心配されることもありますが、おかげさまで体調不良でクリニックを休診にしたことは一日もなく、元気に仕事を続けています。
ただ、「どうだスゴいだろ?」とか「真似をしてほしい」と言いたいわけでは決してありません。
小児科外来には毎日多くの感染症の子どもたちが来院します。私は毎日、流行の最先端となる感染症にさらされ続け、ウイルス感染に対する免疫を常に更新しているからこそ、大きく体調を崩すことがないのだと思います。
「ムツゴロウさんにとっての“猛獣”」は「私にとっての“感染症”」。
ノーマスク診療を続け、猛獣たちと共生することこそが、私にとって目指すべき「ムツゴロウさん」なのです。感染症のあふれる診察室で見せる私の笑顔は、猛獣とたわむれるムツゴロウさんの笑顔と同じ。そして、子どもの頃にテレビ越しに見ていた、あの優しい笑顔は、今も私の心に深く刻まれています。
いま、私は小児科医として、あのとき感じた安心や温もりを、目の前の子どもたちに届けたいと願っています。不安や痛みを抱えて来院する子どもたちが、私の笑顔を見て少しでもホッとできる瞬間があるなら、それが何よりの喜びです。
「笑顔は、ただの表情ではなく、心と心を結ぶ架け橋。」
ムツゴロウさんが動物たちと築いてきた信頼のように、私もこの診察室で、子どもたちと信頼の絆をひとつずつ丁寧に重ねていきたいと思います。
これからも、私なりの「ムツゴロウさん」を目指して、日々の診療に向き合ってまいります。3年目のSSKCを、どうぞよろしくお願いいたします。